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「学び方」を学ぶ授業②(実践編)~Update Learning導入~

こんにちは。暁の星では今年度の中学1年生から、新たにコース制を導入し、学びをスタートしています。
今回は前回に引き続き、5~6月に実施した「Update Learning」型の授業について、具体的な実践についてお伝えします。


「学びほぐし」のためのワーク

「Update Learning」型の授業において私たちは、「個別最適な学び」の実現を目指しています。

ただ、暁の星の目指す「個別最適な学び」とは、教師が考える「個別最適な環境」を子どもたちに提供することではありません。
子どもたち自身が「自律的な学習者」として、身につけるべき「知識や技能」に応じて、それをどのような「方法」で学べば効率的なのか、自分にとっての「個別最適」を判断し、実践できるようになるための「学び」です。

ならば生徒たちは、自分の中にレパートリー豊富な「学び方の引き出し」をどんどん増設する必要があります。
そして、それを助けるのが「Update Learning」型の授業です。

この「Update Learning」型の授業のはじめに私たちが設定したのが、「Unlearn」=「学びほぐし」の活動です。
世界にはわくわくするような多様な「学び方」があることに気づいてもらい、そうした多様な「学び」に浸りながら子どもたちがそれを自分のものとしていくには、まず、「『学び』とはこうあるべきものだ」という先入観を解きほぐさなければいけません。
例えば、「勉強するのはテストで良い点を取るためである」とか、「問題の答えはすべて先生が知っていて、先生が提示してくれるその答えを正確に覚えることが勉強だ」といった先入観です。

そこで、子どもたちには「これからみなさんにはグループで、ある課題に対して『自分たちらしい答え』を見つけ、それを最後の時間にクラスメートの前で2分間プレゼンしてもらいます」と宣言したうえで、次の課題を提示します。

「テストなしで生徒が学び続ける学校をつくるには?」

この授業が実施されたのは、ちょうど中間考査が終わった翌日。テスト返却が始まり、まさに点数に一喜一憂している最中です。
そのテストがなくなると仮定したとき、子どもたちがいったいどんな「学び」の姿を構想するのか、授業を行う私たちもわくわくしながら見守っていました。

⑴ アイディア出し

まずは「テストなしで生徒が学び続ける学校をつくる」ための方法として自分が思いつくものをどんどん付箋に書き出し、模造紙に貼っていきます。
そして、互いのアイディアをグループで共有し、分類したり、つなぎ合わせたりしながらグループとしてのアイディアを一つに絞り込みます。

活動の目的が「『学び』に関する先入観から自由になること」ですので、この活動のルールとして、以下の3点は徹底するようにしました。

 ① 他人の意見を否定しない。
 ② 自分の意見を否定しない。
 ③ 何でも言ってみる。

⑵ 「アイディア」から「企画」へ

次の段階として、グループで一つに絞り込んだアイディアを、3枚のプレゼンシートを使って、具体的な「企画」へとブラッシュアップしていきます。
3枚のプレゼンシートの概要は、以下の通りです。

プレゼンシート①「決めたアイディアは?」

自分たちが一つに絞り込んだアイディアを、他のグループの人にも理解してもらえるように、具体的に説明します。
5W1Hの観点を意識して、分かりやすい説明を心がけます。

プレゼンシート②「そのアイディアの問題点は?」

自分たちのアイディアの「問題点」を発見し、あわせてそれを解決するための方法を検討して記します。
アイディアを思いついたことに満足して、そこで終わりにしてしまうのではなく、「本当にそれでいいの?」という批判的な問いを自説にぶつけることで、「思いつき」の強度が増して「企画」へと進化します。

プレゼンシート③「そのアイディアが実現すると?」

そのアイディアが実現すると、どんな良いことが起こるか、誰が笑顔になるか、具体的にイメージしてシートに記します。

⑶ プレゼンテーション

1グループ2分以内の条件のもと、各グループ、プレゼンテーションを行います。
はじめてのプレゼン活動でしたから、意識すべきルールは最低限にしました。
 ① 制限時間内にまとめること。
 ② 聞き手に分かりやすく伝えること(大きな声ではっきりゆっくり)。

聞き手はそれぞれのプレゼンを、「すごい!」(驚き)と「なるほど!」(納得)の2つの項目(各5点、計10点満点)で審査し、クラスグランプリを決定しました。

ルールは最低限だったにもかかわらず、どのグループも発表資料や導入部分に工夫を凝らしており、「分かりやすさ」にプラスして「魅せる」ことも意識されたプレゼンだったように思います。
聞き手の生徒たちも食い入るように発表を聞いていました。

ここでは、実際に子どもたちから出た「テストなしで生徒が学び続ける学校をつくる」ための「企画」を2つほど紹介します。

勉強した「時間」と「量」に応じて賞金がもらえる。

テストの「点数」の代わりに「お金」を外的刺激にして学びへのモチベーションを高めようとする企画です。
「学び」はもっと純粋なものでなくてはいけないし、「お金」のために勉強するなどけしからん……。通常、学校現場では口に出すことさえはばかられるようなアイディアです。

実際、私たちもこのグループが「お金」をモチベーションとする企画を立てている段階で、どうファシリテート(働きかけ)しようか、すごく悩みました。
子どもたちの話し合いに介入して、方向を変えさせるべきなのか、それとももう少し見守るべきなのか……。
結果、今回は見守りのスタンスを採ることにしました。

すると、このグループ、発表のときの「プレゼンシート③」、「そのアイディアが実現するとどんな良いことが起こりますか?」の項目に、「みんなが勉強したがるようになり、最終的に勉強が習慣になる」と記していたのです。

子どもたちは自身の経験から、「学びを習慣化すること」の重要性を体感しています。
このグループの企画の肝は、「お金」を得ることが「目的」なのではなく、あくまで「学びを習慣化する」ための「手段」であるという点でした。

私たち教師は、よく生徒に「学習習慣を確立しなさい」と「指示」を出します。
でも、「学習を習慣化する」ことの重要性を既に知っている子どもたちに必要なのはそうした「指示」ではなく、「どうすれば学びを習慣にできるかな?」という「問いかけ」なのかもしれません。

実際にその場所に行き、本物から学ぶ」

具体的にそのグループが例として挙げていたのが、社会の時間に日本の「標準時子午線」の話題が出れば、実際に兵庫県の東経135度の場所に行ってみるだとか、体育でオリンピック選手にその選手の専門種目を習うとかいったことです。

実現するにはなかなかハードルの高い企画ですが、それでも子どもたちは「本物」と出会うことがいかに「学びへのモチベーション」を上昇させるか、熱く語っていました。

特に「探究型」の学習などで、学びを日常につなげようと、現実にあり得そうな状況設定を細かく行って生徒に課題を提示するケースがあります。
しかし、今回のプレゼンを聞く限り、どれほど「リアル」に見えるものであっても、それが「本物」ではないことに子どもたちはすごく敏感なようです。

「知識としての情報」を手に入れようとすれば、インターネットで検索すればいくらでも手に入る時代。
でも、その「知識としての情報」が「本物の体験」に裏打ちされることによって、子どもたちの「学びの厚み」は大きく変わってくるでしょう。

いかに「本物」に出会う機会を作り出せるか。 
「学び方改革」を進めるうえでの大きな課題を、子どもたちからもらったような気がします。

⑷ 「ラーニング・パターン」との紐づけ

最後に、今回の活動全体の振り返りを行ったのですが、その中に自分たちが今回プレゼンした企画と「ラーニング・パターン」とを紐づける活動を盛り込みました。

慶應義塾大学 井庭崇「Learning Patterns」

「ラーニング・パターン」は慶應義塾大学の井庭崇先生の研究室でまとめられた「創造的な学び」を実践するための40のコツです。
「『学び方』を学ぶ」授業をデザインするにあたって、私たちは生徒同士、生徒・教師間、教師同士に「学び方」に関する共通言語が必要ではないかと考えました。

しかし、従来学校現場にあった「学び方」に関する言葉は、「毎日コツコツ努力を積み重ねること」といった何をどうすればよいのか分からない過剰に抽象的なものか、「〇ページから〇ページまでの英単語をノートに3回ずつ書いて提出しないさい」といった過剰に具体的な「行動指示」のいずれかでした。

過剰に抽象的な「学び方」の提示は結局どうすればよいか分からなくて、子どもたちは考えることをあきらめてしまいますし、過剰に具体的な「学び方」の提示は、結局、指示に従うだけで子どもたちが「学び方」について自ら考えることにはつながりません。
その中間にあるほどよい抽象度をもった言葉が「ラーニング・パターン」でした。

「ラーニング・パターン」の言葉と結びつける活動を通して、子どもたち自身が自分たちの立てた企画の背後にある「学び方への意識」を俯瞰できるのではないかと考えました。

今後1年生では、この「ラーニング・パターン」をよりどころにしながら、子どもたちにさまざまな「学び方」を体験してもらう予定でいます。
その実践についても、また報告させてください。

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