リフレクション、「自分で考える」を支援する
こんにちは。福山暁の星女子中学校新コース推進プロジェクトです。
いつの間にかすっかり秋。中間考査を無事終えて2学期も後半に突入しました。
本校では今年度から中学コース制をスタートさせており、いよいよ中学1年生はCreative LearningコースとUpdate Learningコースのどちらかのコース(コースの特徴は今までの記事をぜひ!)を選択します。暁の星のコース分けは、テストの点数や偏差値によって教員が生徒を振り分けるのではなく、生徒自身が自分にとって心地のよい学び方はどちらなのかを考えて選んでいく方法で行います。
「中1に学び方の選択ができるの?高校生にならないと無理なのでは?」という問いに対して、「中1こそベストタイミングで、最高のチャンス!」と私達は答えます。なぜ中1なのか、どのような方法で子どもたちの選択を支援していくのか。今回は、現在進行中の取り組みをお話します。
中1からはじめる「進路指導から進路支援」へのパラダイムシフト
何かを選ばないといけない状況になったとき「どっちでもいい。決めて。」これは子どもたちからよく聴くフレーズです。まれに「先生だったらどっちにする?」なんて、上手にこちらの気持を引き出そうとする達人もいますが(^^)
いずれにせよ、どうやら子どもたちにとって「答え」とは、自分自身の中にあるものではなく、まわりの大人がもっているもののようです。
日常の授業の多くは、教師はゲートキーパーであり、子どもたちは教師を通して経験や知識を受け取ります。そのため「答え」は自分の中ではなく外にあるという感覚が学年が進むにつれて刷り込まれ、高校生ではかなりそれが強まります。例えば、今やほとんどの生徒が作成する大学の志望理由。たとえ学部学科が決まっていても、なぜそこを選ぶのか最初から語れる生徒はごくわずかで「親が言うから。周りがそうだから。就職に有利だから。」こう答える生徒が多数派です。ググってもハッシュタグ検索しても「私」が学ぶ理由はヒットせず、時間的なリミットがきて妥協して諦めるというよくない流れ。これは子どもたちだけの問題で本当に仕方がないことなのでしょうか。
中高6年間のスタート近くで、子どもたちの内側にあるビジョン、火種のようなものの存在を子どもたち自身に気づかせたい。中1が今の居心地のよいコンフォートゾーンから成長のストレッチゾーンへ移行するために用意した「どっちにする?」の題材が、今回の学び方のタイプによるコース選択です。適度なストレッチが効いた中で主体性を発揮できる環境を整えたい。もう高校生なんだからと言う理由で突然人生にかかわる大きな選択の場に放り出すような進路指導ではなく、中高一貫した進路支援を目指したいと思います。
選択のためのリフレクション「感情とニーズ」に注目する
現代人が1日に受け取る情報量は、驚くことに平安時代の一生分であり江戸時代の1年分だそうです。しかも、決断にはスピードとともに正確なエビデンスも求められます。デジタルネイティブである子どもたちの心に疲れがたまりやすいのは、ある意味当たり前のことで、学校に通学しづらい児童生徒が過去最多となるのもわかるような気がします。
子どもたちは多感な時期でありながら、その複雑な自分の感情を表現する言葉をあまり知りません。ましてや、プラスやマイナスの感情にどんな意味があるかなど考える機会はほとんどありません。ふりかえりや感想を書くたびに「今日は楽しかったです。このような機会をくださってありがとうございました。」など大人が喜ぶ表現は上達しますが、未来の自分をイメージすることにはつながりません。
そこで、Social Emotional Learning(社会性と情動性の学び)の中にあるSelf-Awarenessのフレームワークをつかって、子どもたちが自身の思考・感情・ニーズに気づき、それが行動の選択にどのように影響していくかを理解するための授業を行いました。では、外に向いた意識を自分自身に向け直す「中間リフレクション」の内容をご紹介します。
10月25日(水)中間リフレクションの時間
・まず、いつものようにグループでアイスブレイクしながらチェックイン。今回は先日、保護者の方にも体験していただいた「Good&New」で、あっという間に教室が温まりました。
・次は「みんなでUL・CLトーク」です。順番にどっちのコースに気持ちがゆらゆらしているか、パラメーターを使ってざっくばらんに語り合いました。はやく話したくてうずうずしている子どもたちもいたようで、友達の話を聞いてほっとしている様子も見えました。こっちかなあっちかなと天秤パラメーターを動かしながら会話は進んでいきます。ここで活躍したのが「心の数直線(熊本市教育センター)」です。定まらない心のユラユラを数値化し、お互いに見せ合いました。
・いよいよ本丸の「気持ちにフォーカス」。子どもたち自身が経験した小さな出来事を、感情カードとニーズカードで再体験します。最初に4月から学校で受けている授業の中で、印象に残ったエピソードを書き出しました。「いいエピソードじゃなくてもいいの?」なんて質問も出ましたが、自分にとって良いエピソードでも、残念なエピソードでも何でも大丈夫だと伝えました。エピソードを思い浮かべながら、そのときの自分の気持ちを「感情カード」の中から探します。「どんな気持ちだった?」と友達どうしでも質問しあったあと、今度は「その感情が起こったのは、何が大切(大事・必要)だからだと思う?」という問いを自分に向けて、〈見守ってほしい・挑戦する・面白さ…〉などの言葉が書いてあるニーズカードをピックアップ。リフレクションの質を高めるため、意見→経験→感情→価値観の認知の4点セット(熊平美香氏)をアレンジしたシートに書き込みをしていきました。このシートは、担任の先生とも共有し、個人面接で継続して作成中です。
・最後に行ったワークは個人で行う「5人の自分」です。CLコースにワクワクする自分、ULコースにワクワクする自分、CLコースにモヤモヤする自分、ULコースにモヤモヤする自分、そして、どちらにも決められない自分。その理由を「だって…」の続きに書いていきます。何かを選択するときに、どの自分がいても当然だということを子どもたちに伝え、5人の自分をやさしく受けとめてね…とお願いしました。そして、子どもたちに安心安全の場をつくるため、このシートだけは決して私たち大人は見ないことを約束しました。
子どもたちのコース選択に、リフレクションがなぜ必要なのか?
〈ふりかえり〉は反省で〈リフレクション〉は内省という捉え方が適切かどうかわかりませんが、今回のリフレクションでは、今までの学習に紐付く感情から、子どもたち自身が気づいていないニーズや価値観を見出す作業をしました。「先生の話が面白かった。次は宿題をちゃんとしたい。」など授業のふりかえりでストップせず、そこでの経験をさらにリフレクションしていく過程を見ていくのは、私たち教師にとっても初めてです。
どんな小さなエピソードであっても、そこに感情が存在していることを意識すると、「私」はこのような「価値観」をもって、エピソードを眺めているというメタ認知が生じます。子どもたちがリフレクションを通して自分を客観視できるようになれば、自分を突き動かす動機に気づけるようになると考えます。
もちろん、どちらのコースの学び方が自分の主体性を発揮できるか判断できない生徒もいて「いまいちよくわからん」「どっちも合っていないかも」など子どもたちは率直に語ってくれています。このあと約1ヶ月つづくリフレクションですが、生じる課題は丁寧に受け止めて対話をしていきたいと思います。引き続き、子どもたちと私たちの歩みをお伝えしていく予定ですので、ぜひ、またご一読ください!…… 最後にひとつだけ。日本中の学校を探しても、こんなに「学び方」について考えて中2に進級する生徒はいないと思います。ちょっぴりうちの子どもたちのことを自慢させてください(^^)